2章 卒論=技術文章の書き方 (4)
2.2.8 考察
[1]「考察」とは
今までの話の流れ
- 「はじめに」:研究の目的と定めた目標を記す
- 「アイテムの記述」:目標の達成を目指した解決策を説明
- 「測定方法」:目標の達成度を示すために測定やシミュレーションを計画して述べる
- 「測定結果」:得られたデータを示す
この後に続く章では、測定やシミュレーションで得た数値に基づいて議論します。
論文での議論とは、論文の向こうにいる読み手を想定して、彼らを納得させる技術的・論理的説明を、論理的に展開することは、まさに「論じ合うこと」でしょう。
考察を辞書で調べてみると、「物事を明らかにするためによく調べて考えること」です。「明らかにする」ことがこの章の目的です。
[2] 製作や測定の結果を議論する
調査分析あるいは開発の経験から、書き手が明らかにしたことを記します。調査や開発をしなければ書き手にもわからなかったことは、読み手にも未知の事柄です。結果に基づいて議論を展開します。
(1) アイテムの開発を目的とした研究
逆説的ですが、「測定結果」に示した数値で目標100%達成したのなら「考察」の章は不要です。ところが、そうはなっていないでしょう。ですから、なぜ満足できなかったのかの「言い訳」を記します。
言い訳の種類
- 理論/アイテムの適応限界
- 設計における弱点、仕様設定の不備、見積もりの甘さ、方針の誤り
- アイテムの技術的弱点(構造、アルゴリズムなど)、不足(出力不足、能力不足など)
- 理論、設計、製作上の見落とし
- 測定を実施できなかった(データの不足)理由
例
- 考察
センサの使用環境では、人の指の検出が要求される。それぞれの指の太さは15~20mm程度であるが、開発したセンサは直径20mmの球体を検出できなかった。そのため、検出可能なサイズの球体を用いて性能を評価した。承継の球体を検出できなかった理由は、反射波のレベルが低く、ノイズとの識別ができなかったためであった。
また、センサの取り付けを想定しているアームは、停止までに最大で50mm移動する。このため、センサには100mmの距離で指を検出できる能力を求めた。開発したセンサはこの距離において、直径50mmを超える物体を確実に検出した。手のひらに対しては十分な検出能力であるが、指を検出可能とするための性能向上が必要である。
ここでは、最初の段階で目的を達成するめの条件(指の太さ)と、それだけの性能を確かめる測定をできなかった言い訳を述べています。また、次の段落では、目的達成条件を実際的理由(停止までに50mm)に基づいて示し、アイテムの実状を述べています。
(2) 調査や分析を目的とした研究
地質や風況の調査、金属やプラスチック材料の成分や物理的特性の測定分析、などを主たる目的とした研究では、測定やシミュレーションで得たデータから、以下を展開する。
- 目的に関連する事項
- 明らかにできた/できなかったこと
- 確認できた/できなかったこと
- ほかの研究報告やアイテムとの比較・検討
- データに関しての原因や理由(理論に基づく、あるいは論理的説明)
を議論します。
例
4.風速測定結果
観測地点 | A棟 | B棟 | C棟 | D棟 | E棟 | F棟 |
---|---|---|---|---|---|---|
平均風速 |
5.考察
観測した6地点の中で平均風速が最大となったのはD棟屋上であった。B棟とD棟はほかの棟より高い10解建てであったことに加え、測定期間内は西風が多かったため、東にA棟、西にC棟が建つB棟に比べ、東西に建物のないD棟の風速が大きくなったと考えられる。
上の例は、
測定データを要約して、なにについて考察するのかを明示し、状況から推定される理由を論理的に述べています。
この点は良いが、
「測定期間内は西風が多かった」と議論するときになってから、新たな情報やデータを後だしすることを許さない!!!!
下の例を見てみてください。
ダメな例
(考察の文の一部)
そこで、南風の日に風速測定を実施した。結果は、南風に建物のないB棟の風速が、北にC棟、南にE棟の建つD棟よりもたかい値を示した。
上のように、
俺は、新たな「測定」と「結果」を考察で述べることは許さない!!!!
(3) 結果からの展望
測定結果で得たデータに関する議論の後には、そこから導き出される展望を議論します。
- 他の研究/アイテムと比較して優れている点/不十分な点
- 他の研究/アイテムへの適応・応用可能性
- 想定していなかった効用など
- アイテムの設計・製作に役立つノウハウ
[3] 気をつけること
(1) 論文のタイトルに関連しないことを議論しない
論文の「タイトル」に関連しない議論をみかけます。
俺は、タイトルにそっていない考察は許さない!!!どどん!!!!
(2) 製作や測定していないことは議論しない
考察では、測定やシミュレーションで得た結果に対して議論します。
いきなりですが下の例を見てください。
ダメな例
図8のように、電池電圧が10Vまで低下する時間は30分と推測される。
↑図は関係ないが図8は線形直線
このように述べることは、書き手は推測したつもりかもしれませんが、憶測にすぎません。というのは、直線的に推移する理論的根拠がないからです。
俺は、結果に示されていない特性や性質に関する議論をすることを許さない!!!どどどどん!!
さらに下の例を見てください。
ダメな例
今後は、□□の加工をしたサンプルを作成して〇〇値を計測する必要がある。
このように記すのも、製作や測定をしていない事柄への言及です。卒論は卒業研究の報告なのですから、必要であると考えたのに測定できなかったなら、そうなった理由を言い訳にします。
(3) 結果の数値を繰り返さない
考察では、データを繰り返し述べません。
代表的数値や分析、特性や応答だけに言及して、どのデータに対しての議論なのかをわかるようにして検討や分析を加えます。
(4) 主観的・感情的表現を用いない
しゃんくすもびっくりですが、感情的になってはいけません。考察では、定量的、客観的表現を心がけないといけません。
● 大小は主観的表現:「大きく」「高く」などは主観的表現です。
ダメな例
- 計算時間を大きく短縮した
- 精度を高くした。
上のように定常状態(平均)がどのくらいかという認識によって、大きく/小さく、高く/低く、などの感覚は、人それぞれ大きく異なります。
良い例
- 〇〇法を用いたときよりも20%演算時間を短縮させた。
- プログラム導入法により位置精度を5%向上させた。
のように定量的表現を心がけましょう。
●「良い/悪い」も定量的:「よくなった/わるくなった」「優れた/劣った」との主観的表現も何も伝えません。
ダメな例
〇〇方式よりも応答が良くなった。
何がどうすれば「良い/悪い」かはわかりません。
良い例
〇〇方式より目標値からの偏差を±2mm減少させた。
● 感情的表現を使わない:無意識に感情的表現を用いることがあります。
ダメな例
- 10%もエネルギー変換効率を向上させた。
- 20%しか演算時間は短縮しなかった。
- 偏差が50°を越えてしまった。
上は何がダメなのと思いますが、「も」「しか」「しまった」などは、書き手の意識を表しています。
たとえ失敗と感じたとしても、論文に感情的表現は不要です。
●「思う」「感じる」と記さない:「~と思う」や「~と感じる」との表記は、数量的データを伴わない書き手の推測を表します。
ダメな例
- 試作した回路は安全に動作すると思う。
- 開発したロボットをかっこいいと感じる。
結構やってしまうと思います。論文はブログでも小説でも感想文でもないです。憶測や想像を記すのではなく、データに基づいた論理的な推論に基づいて議論します。
●「非常に」を使わない:「非常に」も主観的表現です。
ダメな例
〇〇法は非常に有用な手段である。
同じような例として「わりと」「とても」と書かれているのも見る。強調したいのであれば、比較対象を示して、
良い例
〇〇法を用いた誤り訂正アルゴリズムは□□法を用いた場合と比べて、外乱から受ける影響を10%低減させた。
のように、数量的表現を記しましょう。
2.2.9 「おわりに」/「まとめ」
[1] 入れても入れなくても良い
「終わりに」あるいは「まとめ」と題する最終章は、用いても用いなくても構いません。入れるか入れないかは指導教員と相談して決めてください。
この章を入れるときは、最初の章名と以下のように対応させます。
- はじめに ー 終わりに/まとめ
- 緒言 ー 結言
- まえがき ー あとがき/まとめ
- 背景 ー 今後の展望
[2] 今後の展望を述べる
研究目的を達成するために必要であるが、論文の中では検討できなかった項目を記すこともあります。
例
- おわりに 開発した超音波センサは、超音波音響レンズの採用によって正面から30°の方向まで検出エリアを拡大した。ところが、最小物体検出能力を高めることには成功していない。その原因は受信信号のレベルが低いためであり、音響レンズでの損失を減らす工夫が望まれる。
「おわりに」では、「考察」で記した内容を繰り返さないように注意します。
[3] 「まとめ」を入れるとき
論文の冒頭に"Abstruct"や「要約」「摘要」を記すときは、「まとめ」は入れない方が良い。
「まとめ」では、研究の目的・論文目標、アイテムの記述、測定結果、および考察を、それぞれ1から2文で記します。
2.2.10 謝辞
指導や協力を頂いた方に謝意を表します。
- 学外から学内の方とします。
- 謝意を表す型をフルネームで、学外者は学位または敬称を、学内者は職名を、学生は選考と学年を添えて記します。
例
本研究の遂行にあたっては、株式会社四皇より試料の提供をいただくとともに、同社 赤髪 死夜来栖博士から技術指導をいただいた。論文の作成に際しては 千両道化 バギー教授のご指導をいただいた。装置の製作には修士課程2年 黒 髭さんのご協力をいただいた。本研究には財団法人カイグーン補助金を用いた。ここに深謝する。
2.2.11 参考文献
[1] 文献番号のつけ方
論文や書籍などを参照したときには、著者の名字に続けて参照した対象を記し、半角上付き数字で文献番号を示します。
文献番号は、著者の名字に続けて、または、参考にしたことを述べた直後、あるいは、句読点の手前に示します。
例
- ルフィ男ら(1)は、赤外線を用いた障害物検出法を報告した。
- ルフィ男らは、赤外線を用いた障害物検出法を報告(1)した。
- ルフィ男らは、赤外線を用いた障害物検出法を報告した(1)。
「ルフィ男大統領」や「ルフィ男教授」や「ルフィ男さん」などとはしません。
和文書から参照したときは外国人名もカタカナで、欧文誌を参照したときには日本人名もアルファベットで記します。アルファベットで記された日本(中国、韓国)人著者の漢字表記を知っているとしても、印刷されたとおり記します。
書籍を参考するときも原則として著者名を記します。
悪い例
「プログラミング言語C--」(2)に記されている検出アルゴリズムに、物体移動時の予測を加えた。
良い例
山縣の検出アルゴリズム(2)に、物体移動時の予測を加えた。
「山縣」と旧字体で書かれていますが、「山県」と常用漢字にしないで、文献に示されたとおりに記します。
著者名がしるされていない統計報告やデータシートなどを参考にした時には、
例
計測回路は悪魔の実データシート(3)を参考に設計した。
のように書く。
文献番号の示し方は、両括弧のほか、右括弧だけ、括弧なしなど卒論集や学術誌によって変わるの確認してください。
[2] 参考文献リスト
論文の最後に、参考文献リストを作ります。
(1) 学術誌からの参照
著者名、タイトル、掲載誌名、巻(号)、pp.開始ページ-終了ページ、発行年を示します。
複数著名のときは、参考文献リストでは、全員記します。
(2) 書籍からの参照
著者名、タイトル(書籍の中の章タイトル)、編集者名[編]、書籍名、pp.開始ページ-終了ページ、発行年、を掲載します。
(3) Webページからの参照
企業名(株式会社などの種類は略す)、タイトル、URLとそのページを参照した年月日を示します。URLが長い時は、改行しましょう。
(4) 欧文誌からの参照
欧文で示します。欧文では、カンマとピリオドは半角で記して、その後に半角スペースを入れます。
例
- 麦わら・海賊団ほか, 赤外線を用いた近接障害物検出方法, 日本おだちゃん学会誌、 123(4),pp.55-78,1987
- 山縣有朋, 強化学習による障害物検出アルゴリズム, 日本なんでも応用学会編, プログラミングCC--, 相原出版, p.90, 2001
- ABC電子, 悪魔の実データシート, www.akuma.com/def/ghk.html, 参照日:2019.2.30
- W. Churchill, et al., An obstacle detection sensor using a laser diode, J. Ultra-Super Sensors, 56(7), pp.56-78, 1999
[3] 参照してよいもの/そうでないもの
参考文献とできる資料は、公表されたものに限ります。
信頼できる情報源を以下に示します。
(1) 論文
学術誌は英文、和文を問わず参考文献に出来ます。
研究会や国際会議抄録も参考文献にできますが、その内容は論文として公表されているかもだから調べろ。
(2) Webページ
政府機関、UNESCOなどの国際機関、CECDなどの国際団体、新聞社・通信社が発表する統計などは信頼できる数値です。電子情報技術産業協会などの業界団体、当該分野のメーカーのWebページなどの技術情報も参考にできます。
2chとか参考にするなよ。
(3) 書籍・技術情報誌・データシート
大学院レベルの書籍、その分野の技術情報誌、使用したアイテムのデータシート、アプリケーションマニュアルなどの対象者が詳しくないと思われる情報については参考文献に加えるようにしましょう。
2.2.12 概要・Abstract
概要は(摘要、要旨)は、論文の本編の前に位置しますが、記すのは最後とします。なぜなら概要は、出来上がった論文の最も重要な点を記すものだからです。
構成は以下のようになる。
- 研究をとりまく状況あるいは必要性、およびそれに対する解決法(どのようなアイテムをつくるか)、あるいはなにを明らかにするのか(1~2文)
- アイテムの説明(1~3文)
- アイテムのパフォーマンス(結果、特徴)(1~2文)
まとめ
どんな理由があろうと!!!
俺は、てきとうな論文を書くことを許さない!!!