2章 卒論=技術文章の書き方 (3)
このページでやること
著者名
概要
はじめに/緒言/まえがき/背景と目的
アイテムの記述
測定方法(実験方法) ← ココ
測定結果(実験結果) ← ココ
考察
おわりに/まとめ/今後の展望
謝辞
参考文献
↑島ちゃんの書いたCSSをちょっといじってmarginをつけた。
CSSでのサイズの単位にはpx
だけじゃなくて、文字サイズを基準にするem
とかrem
もあるよ。
2.2.6 測定方法
[1]測定の目的
測定の目的は、アイテムに用いたアイデアの有効性を予測すること。
課題解決に特に関係ない値を測定しまくっても意味ないよね。
1つの条件下での値だけでなく、いろいろな条件で測定することも必要。
[2]章のタイトル
評価するパラメータを章のタイトルに含める。捕虫ロボットの探索システムであれば、「探索性能測定方法」。
[3]測定の計画
アイテムの基本性能と性能限界を表せるように測定を計画する。「アイテムの基本性能」とは目標の達成状況、「アイテムの性能限界」とは基本性能を発揮できる範囲。
それぞれの測定は特別なものではない。たいていは、当該分野で標準的に用いられる測定の組み合わせとなる。
[4]測定値を比較する
データを比較したいときは、「測定方法」に測定データの差の評価方法を示す。
具体的には2.2.7の「測定結果」で説明する。
[5]文末表現
測定したことは過去の出来事だが、測定方法を決めたのは測定するより前のこと。「〜した」も「〜する」も違和感ないため、どちらを用いてもかまわない。書き上げた後、違和感なく読めることを確認する。
[6]気をつけること
(1)わかったつもりになっている
自分で測定をしていると、いつもの手順の繰り返しになり、必要な情報をついつい書き漏らしてしまう。初めてその測定をセットアップするときを頭の中でシミュレーションして、手順を確認する。
「測定結果」を記した後で、
- 記述された手順に沿って測定すれば、示されたデータを得られるか
- データの統計処理方法を記しているか
を確認する。
(2)設定パラメータを明示する
【ダメな例】
入力電圧を変えて出力電圧を測定する。
(3)曖昧となりやすい語
●性能
例えば、「エンジンの性能」と一言で言っても、燃費・最高出力・トルク特性・応答特性・振動など、パラメータはいくつも考えられる。
「○○の特性」というように、対象とするパラメータを明確にする。
●分析
「分析」と「測定」は違う。個人的にはあまり間違えなさそうな気がする。
(4)誤用されやすい語
●評価
「評価」は、なんらかの基準を用いて価値や優劣を定めたもの。
【ダメな例】
二輪車コーナリング時のバンク角を評価した。
「バンク角」はカーブで二輪車を曲がる方向に倒した角度。つまり数値なので、たぶんこれは「測定した」の間違い。
試料の特定用途への適合性を検討したのであればこれは適切。単にモース硬度を測定しただけの場合は「評価」ではなく「測定」。
要するに、単純に数値を測るのは「測定」。その数値をもとになんか考えるのが「評価」。
●調査
わからないことを調べることを「調査」という。
【ダメな例】
信号の周波数を変更してフィルタ出力電圧を調査した。
これは「測定」らしい。
これはわからない値を調べているから「調査」でいいらしい。
「わからない」の基準がよくわからないので「調査」する必要がある。
●効率
エンジニアリングの世界では、「効率」というのはエネルギーに関連する用語である。
かなりダイレクトに全員に役立ちそうな例が載っていた。
【ダメな例】
計算効率を向上させるために、プログラムを見直した。
エネルギー効率に関して研究している人はいなかった気がするので詳しい解説は割愛。
2.2.7 測定結果
[1]「測定結果」と「考察」
「測定結果」と「考察」を分けることも、合体して一つの章とすることもある。どちらでも書きやすいほうで書けばおk。
注意すべき点を述べるためにこの本では分けて説明されている。
「測定結果」で記すことは、
- 測定やシミュレーションから得られた数値
- 数値を解釈するための統計処理結果
これに対して「考察」では、
- 得られたデータから明らかになったこと
- 研究目的を達したか、目標とした特性を得られたか
「測定結果」には淡々と数値を載せて、それに対して思ったことは「考察」に書く。
[2]節・項の順序とタイトル
「測定結果」の章の節・項の順序とタイトルは、「測定方法」の章と対になるようにする。
[3]グラフを用いる
例えば、
○○ダイオードのアノード-カソード間の印加電圧を0.5Vから50mV刻みで0.7Vまで上昇させたとき、ダイオード電流は、2.02μA、13.8μA、94.7μA、248μA、4.43mAとなった。
と言われて、「あぁ、なるほど。アノード-カソード間電圧に対してダイオード電流は指数的に増えてるのね。ただ0.65Vのデータがずれてるよね」とぱっとわかる人はいないと思う。いた?
このようにグラフにすれば読み手にすぐ伝わる。
[4]想定外の測定値について
上の図の0.65Vのときの値を「これ邪魔だな〜」とか言って取り除くのは「データ偽装」になる。
こういうときはいい感じになるまで測定をやり直して修正する。
もし時間がないときは値はそのままにして「考察」の章で言い訳する。
[5]結果を解説する
グラフだけ見せられても読み手にはどこを見てなにを読み取ればいいかすぐにはわからない。
書き手が読み取った「要点」を解説する必要がある。
[6]結果を比較する
2種の陽極AとBを用いて試作した電池から、以下の表のような結果を得られたとする。
【ダメな例】
放電容量〔W・h〕 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
陽極/サンプル | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 平均 |
A | 11.5 | 12.5 | 9.9 | 10.5 | 12.2 | 11.32 |
B | 10.8 | 10.3 | 13.5 | 12.7 | 15.1 | 12.48 |
このように測定したデータを全て論文に示す必要はない。平均値と標準偏差を示す。
[7]差を判定する
問.
例2.47の結果では、陽極Aに比べ陽極Bを用いたときの放電容量が10.2%(12.48 / 11.32 = 110.247...%)大きくなっています。この結果から「改良した陽極Bによって放電容量は増加した」と記してよいでしょうか。
答.
t検定というものを使うと、増加したと断言することはできない。
What is t検定?
標本サイズ(サンプルの数n)が5〜6くらいの独立で対応のない2標本(つまり、今回の例のような場合)の平均値の差の検定に適している。
今回の例の陽極A、陽極Bのデータが10,000件くらいあれば平均値の比較で差があると言ってもいいかもしれないけど、今回はデータがそれぞれ5件しかない。
そこで、データが10,000件あるときの平均値をととして、そのうちたまたま取れた5件のデータの平均値がそれぞれとだということにする。
ここであえて、この2つのデータに差はない、つまり、であると仮定する。これを「帰無仮説」という。
このとき、5件取った平均値の差がになる確率を求める。これにはExcelのT.TEST()
関数を使えるらしい。詳しくはPP.159-161あたりを参照。
この確率は、言い換えれば「2つの母集団の平均値は同じだけど、取ってきたサンプルの平均値の差がたまたまそのくらいになる確率」ということになる。これをt統計量と呼ぶ。
つまり、これが十分大きい場合、「そのぐらいの差は出ることもあるよね」と言えてしまう。
このとき使う基準値には5%()や1%()が使われることが多く、これを有意水準と呼ぶ。
逆に、t統計量が5%や1%を下回っている場合、とした仮説が否定(棄却)できる。このとき2つの平均値に有意な差があると言うことができる。
今回の例の場合、t統計量を求めるととなり、「有意差は認められない」と書かざるを得ない。
10,000件とか5件とかいう数字は適当なので、統計学的に正しい値ではないかも。
[8]文末表現
測定したのは過去のことだから、「〜した」「〜であった」と記す。ただし、結果の表し方や図表を説明する文は「〜示す」とする。そりゃあそう。
[9]気をつけること
(1)「成功した」と記さない
ついつい言いたくなるけど、「成功」という言葉の定義をちゃんとしていないとなにも伝わらない。
しかも、成功の定義を述べたときにはすでに「成功」と記す必要はなくなっている。
【ダメな例】
AIピッチングマシンの開発に成功した。
とするのではなく、「投球数100球のうち目標範囲内を97球が通過した」とかいうように書く。
工学系卒論では、データに語らせる。「よい結果であった」のような飾り言葉は不要。
(2)「できた」と記さない
「成功した」と同じく、「できた」というのも稚拙。
例えばセンサの能力について書くならば、「直径50mmの球体ではすべて検出されたが、直径40mmの球体では垂直30°方向では検出できなかった」のように書く。
(3)述語を羅列しない
結果の説明では、述語が羅列された冗長表現を書いてしまいがち。簡潔に数値で語らせる。
判定成功率が向上することが示されている。
→ 判定成功率を○○%から□□%に向上した。
応答が早められたと考える。
→ 応答時間を△△msから▽▽msに短縮した。
結論:単純に数値を測るのは「測定」。測定結果には「成功した」とか「できた」とか主観的なことは書かず、ただデータに語らせる。