2章 卒論=技術文書の書き方
2.1 「論文」とは
2.1.1 技術説明のパンフレット
論文初めて書くかも知れないけど、難しく考えるな!
論文は、所詮(成果を同業の研究者やエンジニアに正確に説明して、他の研究や製品に活用してもらうための)パンフレットである。
だけど流石に守るべきルールも多少あるから、それを説明していく!
2.1.2 再現可能となるように記す
論文は、それを読んだ人が執筆者と同じくらいの見識と技術を持っていれば「検証」、すなわち
「追試」が可能となるように書こう。
つまり、論文で最も大事なのは再現性である。執筆者以外の同業者にも再現可能であることが論文に課せられる条件となる。
STAP細胞
2014年、『Nature』誌に「刺激惹起性(じゃっきせい)多機能性獲得細胞」の論文が発表され、その後に撤回されました。筆頭記者(小保方晴子)は記者会見を開いて「STAP細胞はあります」と語りましたが、科学の世界では、記者会見で発表しようと、マスコミが騒ごうと、論文がなければ認められません。査読を経た論文が学術誌に掲載される、つまりは記された内容が科学的に妥当であると認められて、初めて「研究成果」、すなわち科学の世界で認知されたことになります。
STAP論文は一度は掲載され、研究成果として認められたものの、その後「再現できなかった」ことで撤回されました。
何が言いたいかというと、再現可能性を担保することは論文を書く人の責務であり、無論データの捏造などもってのほかであります。
卒論では査読はないかも知れませんが、適当言ってると単位もらえなくても文句言えないですよ。
2.1.3 同じ分野のエンジニア・研究者を想定して記す
論文の読み手は、同じ分野のエンジニアや研究者を想定します。ですから、指導教員と同じくらいの知識を持つ人が読むことを想定して書きましょう。
例えば、「本研究室の設備を用いて作成したサンプル」ではなく、「電気炉(〇〇社、ABC-1234型)を用いて600℃の窒素雰囲気中で3時間加熱した」のように、読み手にわかるように書こう。
ただ、実験を再現できるように、といってもプログラムや装置の設計図、回路図などを全て載せる必要はありません。その分野のエンジニアや研究者、つまりは指導教員くらいの知識と技術を持つ人には再現できるように情報を記載します。
例を挙げると、プログラム全文を載せる必要はないけど、
デバイスやシステムを開発したのなら、
などは再現のために必要だよね。
逆に、その分野かじってる人なら当然知ってる(教科書レベル)ぐらいのことは載せる必要はないし、参考文献にも書かなくてOK!
2.1.4 論文に記すこと
論文には、開発したシステムや調査した案件について、「こんなものができたぞ」「こんなことがわかったぞ」というように、最も伝えたいことを記します。
伝えたいことはたくさんあるかもしれないけど、絞って書こう。
2.1.5 数値で語る
「データに語らせる」と言いますが、結果を記すときは修飾語を並べてぐだぐだ言うのではなく、数値にしましょう。
いやいや・・・
「極めて高い」ってどんくらいやねん!!!
となることでしょう。
主観的な語句を排除して、数値で客観的に示した例が以下。
このように、数字で示せば、どれだけの認証ができたのか一目瞭然となります。
別の例では、
う〜ん・・・
ダメ
ですね。
どこがダメなのか考えてみるのはどうでしょうか?
正解例はこちら
このように、数値を用いて「定量的」に表現します。
2.1.6 用語の表記
専門用語の表記は、国立研究開発法人科学技術振興機構のJ-GLOBALサイトの「科学技術用語」で確かめましょう。
あとで書くけど、専門用語は「コンピューター」か「コンピュータ」かなどのようにきちんと正式な表記が定められているよ。
卒業研究で開発するアイテムには、役割が分かり、他の要素と区別できる名称をつけます。
たとえば、「障害物を検出する超音波センサを開発する」と記すよりも、「障害物検出モジュール」とアイテムの名称をつけて「超音波センサを用いた障害物検出モジュール」と記す方がわかりやすくできます。
いちいち「今回開発したモジュールは・・・」なんて言うより「障害物検出モジュールは・・・」って言った方がくどくなくていいよね。と言うことで、アイテムには適度に名称を設定しましょう。
2.1.7 外来語の表記
「マイコン」や「シミュレーション」「システム」などのように、外国語がカタカナになって日本語として存在している外来語があるけど、専門的なものやごく一般的なものを除いてなるべく外来語は用いないようにしましょう。
外来語に関して内閣告示では「英語の語末の-er,-or,-arなどに当たるものは、原則としてア列の長音とし、長音記号『ー』を用いて書き表す」とされています。
一方で、機械、電気、情報系では原則的に「ー」を用いません。
例えば、「センサ」「モータ」「コンピュータ」「レーダ」「エレベータ」「ユーザ」などなど・・・。
ただし「エネルギー」のように長音記号を用いるものもあります。外来語についてもJ-GLOBALサイトで確認しますが、「科学技術用語」にない語に関しては神経質にならなくて良いでしょう。
Warning
間違いやすい語として「シミュレーション」があります。「シュミレーション」ではありません。
2.1.8 やってはいけないこと
論文の書き手には、そこに記されていることが、業界の標準的なルールに則って得られたデータであることを保証する責務があります。
作っていないシステムを「作った」とすることや、測定していないデータを「得られた」とすること、都合の悪いデータの数値を消すことや変更することは偽装であり、改ざんです。絶対にしてはいけません。
コピペもダメ。たとえ無料で手に入る状態でネット上に公開されていても、書き手の考えを表現したものは著作物です。
著作権法には、
とあります。印刷物は言うまでもなく、ネット上にあっても文章や図表は著作物ですよって話。
剽窃、盗用はダメ。コピーして自分でみる分にはいいけど、公開したり他人に渡したらNG。
2.1.9 盗用しない
どこからが盗用になるかは曖昧な領域。丸コピはNG!だけどよく読んで理解し、原文を見ないで自分の言葉で説明できれば、そこには書き手の思想や考え方が反映されるので書き手の著作物と言えるでしょう、と言うことらしい。
図も同じ。丸コピじゃなくて元図を見ないで作図したなら、図に示される情報や考え方は書き手独自のものになっているはず。
他人の数値やデータを自分で計測したとするのは盗作。
2.1.10 引用について
引用は、「目的上正当な範囲内」に限って、以下の全てを満足する時のみ、引用として認められます。
引用の定義
引用として認められるものは文字(文章)だけであり、図表の引用は認められません。